
2017.1.19
うらしま堂 渡辺つり具店
東北自動車道羽生インターを下り、市街地に向け車を走らせているとユニークな看板と白壁の箱型店舗が見えてきた。
「うらしま堂 渡辺つり具店」である。
駐車場に車を止めると 上州名物 赤城おろしで、飛ばされてきた落ち葉を掃除する人影に気づく。
DC SHOES(スケーター人気ブランド)のパーカーとビーチサンダルのいつものスタイルの渡辺社長が、こちらを見て微笑んでいた。
「この時期は、掃いても掃いても落ち葉が飛んできてさ~」といつもの笑顔にホッとする。
挨拶もほどほどに店内に入るとロッド&ルアービルダーである岩崎さんが、同じく笑顔で出迎えてくれた。
店内には、最新のルアーやフライ用品は当然のことながら、オールドルアーやトップウォータープラグ、ロッドビルディングパーツが所狭しと陳列されている。
店内奥にあるロッドビルディング工房に案内され、渡辺社長が入れてくれたコーヒーを飲みながら、インタビューが始まった。
「うらしま堂 渡辺つり具店は、羽生駅近くで父親が営んでいたヘラ専門の釣具店がはじまりですよ」
渡辺社長が1歳の時の話となり、今年創業60周年を迎える。
「よく皆に聞かれる、店名にある『うらしま堂』の由来は、親父もいないし、母親にも聞いてみたけど、親父と看板屋さんが決めたみたいだね。父親の頃には、『うらしま堂』という屋号が店名だったけど、電話出る時は、 渡辺つり具店です。 って親父が言っていたから子供心に おかしいだろ!! って思ってたよ。」(笑)
今回の取材で「うらしま堂」という店名の謎を解明できると期待していたが、浦島太郎伝説の玉手箱のように真相は謎のまま…
「俺は18~28歳まで、東京の釣具問屋で、釣具店を営む上で必要な仕事を学ばせてもらったよ。営業、発送、クレーム対応に加え、当時扱いの多かったホームセンターへの釣具納品も行ったな~。ちょうど、週刊マガジンで『釣りキチ三平』の連載がはじまり、忙しい毎日だったけど、休日は湘南や千葉に出掛けては、波乗りを楽しんでいたよ」とサラリーマン時代を振り返る。
「波乗り、釣り、柔道、スケートボード、スノーボードに加え、48歳から極真空手にもチャレンジしたけど、どれも広く浅くかな」と謙遜して話す渡辺社長だが、取材中も椅子に座ることなく、「体幹バランス」を気にしている点は、仕事も遊びも本気で突き詰めないと済まない性分が伺える。
セピア色のパネル写真はなんと「国際つり博2004」FUJIブースROD CRAFTコーナーに展示されたもの。題して『FUJIブースに渡辺雄三がいる!』 そして47歳当時とあまり変わらない現在の渡辺社長。
このように大事にしていただいて感動!!!
「親父からこの店を引き継いだのは、10年間のサラリーマン生活を終えてからだったね。1984年くらいだったかな? アメリカにルアーやフライ関係の商品を買い付けに行き出したのもこの頃で、10年間アメリカ全土をまわったよ。
今のように情報が溢れている時代ではなく、すべて手探り状態だったから、大当たりする商品もあれば、大量の在庫になった商品もあったよ。今となればその当時の経験が、商品を見極める目と基準を作ってくれたのかな。」
渡辺社長は、笑いながら話してくれた若かりし頃の思い出話しではあるが、当時はインターネットもなく、情報収集は自らの足で探す時代、ましてアメリカでは相当な時間と労力を要した仕事だったと容易に想像がつく。
「ロッドビルディングを始めたきっかけはね…アメリカから仕入れて来た商品は、日本人にはグリップが太かったり、ガイドが必要以上に大きくて、使い勝手が悪かったからなんですよ。あと当時は、今のように1万円出せば、機能も見た目も満足しちゃうロッドなんてなかったから!」
左がロッド&ルアービルダーの岩崎さん
−−そんな会話をしていると1人の男性が、トラウトロッドを持って店内に入って来た。男性の要望は、グリップの長さが体形に合わないので、自分でグリップを伸ばす改造をしたいとのこと。
その要望を聞いた岩崎さんは、「既製品の改造は、うちではお受けできませんが、お客さんが、改造する為のパーツ作りはお手伝いしますよ」と丁寧に説明しながら、ロッドビルディング工房に入っていった。グリップの長さ、デザインの細部まで、旋盤で加工。時折ノギスで寸法を確認しながら、魔法のように仕上げていく。
時間にして約15分程度だろうか、店内で商品を見ながら待っていた男性に、組付け・接着するだけに仕上がったグリップを見せた途端、少し驚いた表情の後に満面の笑みがこぼれた。
男性が店を出た後に、渡辺社長と岩崎さんに「今のお客様の笑顔最高でしたね!」と問うと「ああいう笑顔に会えるとやったかいを感じますね」と2人揃って返事。
渡辺社長曰く、「やるからには楽しみたいし、お客さんにも楽しんでもらいたい。商売をする上で大切にしているのは、自分が使ってみて、良いと思ったものをお奨めすることです」
「今の世の中、情報が溢れている。スマホでいくらでも情報を得る事が出来ます。正しい情報もあれば、間違った情報もあります。釣具店として、お客さんに正しい情報を伝え、本気で楽しい提案をしてあげるのが使命だと思っています。今年創業60周年の節目を迎えるけど、40周年 50周年の時と変わらず淡々とやっていきたい。うちの良さは、こだわりがないことが、こだわりだから」
と渡辺社長は笑いながら話すが、仕事としての釣り、遊びとしての釣り、それ以外の遊びにおいても一切の妥協はせず、トコトン突き詰める事で得た「本気の遊びを伝えたい」を渡辺社長の目の奥に感じる。
取材を終え、帰ろうとすると、もう1人の男性が、店内に入ってきた。
男性と渡辺社長の話しに聞き耳をたてると「このお店のオリジナルロッドのアクションがすごく気にいったので、自分も1本つくりたい」とのこと、渡辺社長と男性が数分話しをして具体的な注文になると思いきや2人して店の外に出て行ってしまった。
あとを追いかけていくと駐車場横のスペースで、男性がキャストしている隣で渡辺社長がロッドの特徴を解説する姿があった。
既に薄暗くなり、店の照明で照らされる2人のシルエットを見ながら今回の取材を終えることとなった。
うらしま堂 渡辺つり具店
・住所 〒348-0028 埼玉県羽生市北袋445-1
・TEL 048-565-0444
・FAX 048-565-0584
・営業時間 13:00~22:00
・定休日 月曜日、第3回目火曜日
(メモ)
フレッシュウォーターのルアー、フライフィッシングなどの一般的な釣具の扱いと併せ、オールドルアーやトップウォーター関係の取扱いが充実。
「必要!」から生まれた「マルチテクニックのスペシャルロッド The CUSTOM」や遊び心溢れる「キャスティング どうでしょう」、「釣行記」に加え、「雪板記」?と渡辺社長の人柄をあらわすホームページも必見です。
「うらしま堂 渡辺つり具店」は、いつまでもいたいと思わせる“居心地の良さ”のある釣具店です。
きっと貴方の願いをかなえてくれる玉手箱を手に入れることができますよ!